書籍『ジオサイコロジー 聖地の層構造とこころの古層』(創元社)
中沢新一・河合俊雄
2022年12月13日
河合俊雄さんとの共著、『ジオサイコロジー 聖地の層構造とこころの古層』が刊行されます。2022年10月に開催された日本ユング派分析家協会の研修セミナーで行われた講演と対談がもとになった書籍です。地形と歴史・文化を層的に読み解くアースダイバーと、臨床心理の現場から解き明かされる人間の心理の構造。両者の融合する対話をお読みください。
【出版社】創元社
【刊行年月日】2022年12月13日
【ISBN】978-4-422-39006-2
【定価】1,980円(税込)
【内容紹介】
現代は、「ジオ」の時代である
思想家・文化人類学者である中沢新一氏と臨床心理学者・ユング派分析家である河合俊雄氏が日本ユング派分析家協会の研修セミナーでおこなった講演と、その後のディスカッションをまとめたもの。
中沢氏は、「人間の精神も自然が生み出したものであり、自然に包摂されている」という考えのもと、地形や歴史を調査することで人間の精神活動のきわめて深い場所の構造を探求しようと「アースダイバー」という活動を続けてきた。そして日本各地の「聖地」を調査することで得た成果を、2021年春に『アースダイバー神社編』という本にまとめ上げた。
「聖地」とされる地の特殊な自然地形、そしてその上で展開されてきた精神活動や歴史とのつながりを探ることで中沢氏に見えてきた精神の層構造は、河合氏にとっては、心理療法のなかで感覚的に捉えてきた、象徴だけでは捉えきれないこころの層のありようと、見事に符号し腑に落ちるものだという。
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本書は、第一部の中沢氏の講演から始まる。人類に「こころ」というもの、意識というものがどのようにして生じてきたのか、また、旧石器時代をへて新石器時代へと移り変わるなかで、人間と自然との関係はどのように変化していったのか、そしてその過程で「象徴」というものがどのようにして生まれ、神概念と結びついていったのか、など、人類の意識の誕生とその変遷を自然(=ジオ)と歴史とを絡めながら語りかける。
第二部は、河合氏の講演で、中沢氏の本『アースダイバー神社編』を分析心理学者の視点から詳しく読み解いていく。項目やテーマごとに取り上げられた内容が、こころの古層との関連やユング心理学との比較をまじえて語られるうちに、二つの学問がしだいに共鳴しはじめるのがよくわかる。
最後に第三部では、第二部の河合氏の講演内容を受けて、中沢氏が追加や補足のコメントを付し、軽妙でありながら該博な知識と考察に裏付けられたディスカッションが繰り広げられてゆく。
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これから二人の学者が、こころの古層について共に研究し追及してゆくことで、こころ(=精神)とは何か、人間とは何かという本質的かつ哲学的な問いに、これまでにはなかった切り口の答えが見えてくるかもしれない。そしてそこから、われわれがこれから先の時代を生き抜いてゆくための、新たな学問への地平が啓かれてゆくに違いない。
本書は、その可能性へと踏み出した第一歩ともいえるだろう。
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目次
まえがき……河合俊雄
第一部 精神の起源とこころの発生……中沢新一
現象学との出会い──エリアーデからユング、ショーレム、コルバンへ
もう一つの潮流、構造主義──レヴィ=ストロース、ラカン
聖地の構造──『アースダイバー神社編』
幻の大陸スンダランドとアボリジニの宗教
アボリジニの宗教に見える二つの層
象徴文明の誕生──新石器時代
自然の制圧と象徴の意味増殖
一神教の登場──宗教の倫理化
象徴の縮減
男性像による神の現れ
近代社会の解体と宗教の衰退
歴史の解体を超えて──人間の宗教性の根源へ
「ゾクチェン」との出会い
修行を求めて
河合隼雄が求めていた宗教のあり方
こころの三層構造
こころに深層はなく、すべては表層である──『アンチ・オイディプス』の意識革命
示したいヴィジョン──日本の神道に生きる三層構造
第二部 聖地の層構造とこころの古層……河合俊雄
Ⅰ 宗教以前・象徴以前
象徴・聖地・こころの古層
岩
三元論│第三のもの
循環と増殖
縄文と倭人(弥生)のハイブリッド
死霊との結合
胎児と未生性
Ⅱ 古層からの距離と象徴性
柱
鏡とリフレクション
父・母・子
笑い
ミニチュア化
こころの古層と心理学理論
第三部 討論……中沢新一×河合俊雄
岩──洞窟で行われていた秘密の祭儀、人間の最も根源的な宗教体験
三元論│「第三のもの」とは何を示すのか?
「3」について──夢に現れる「3」
自然(じねん)ということ│世界の成り立ちの基本は「母と子」
循環と増殖──余剰の蓄積・拡大の果てには?
異類婚の示すもの──自然と人間世界の循環
縄文人と倭人──移動へと駆り立てたものは何か?
暴力によって抹殺するか、受け入れるか
死霊との結合──冬の祭儀の主人公は「死」
胎児と未生生──現実と未生空間の両方を抱えて生きる日本人
柱──つなぐものと分離するもの
鏡──自意識の発生、そこから世界を瞬時に対象化する
父・母・子──父の不在
老人・美女・子という三者構造
笑いの持つ意味とそのはたらき
ミニチュア化──自然をどう取り込み、扱うか
象徴操作技術のピークは中世にあり
まとめ
質疑応答
あとがき……中沢新一